rin art association

2025.11.1(Sat.) - 12.28(Sun)

「go-stop plan」

宇佐美 圭司

この度rin art association では宇佐美圭司の個展「go-stop plan」を開催いたします。

日本の戦後美術史を代表する画家である宇佐美圭司(1940-2012)は大阪府吹田市に生まれ、和歌山県で幼少時代を過ごします。
画家になることを志し、東京都国立市にアトリエを構えた宇佐美は活動初期から美術史、音楽、詩など、あらゆる分野の芸術と密接に
関わりながら独学で絵画を学んでいきます。

宇佐美にとって大きな転機になったのは、1965年にアメリカで一冊のカルチャー誌「LIFE」を手にしたことでした。
その中に掲載されていたロサンゼルスのワッツ地区で起こった暴動事件における1枚の報道写真から「たじろく人」「かがみ込む人」
「走りくる人」「投石する人」の四つの人型を抽出し、それらを記号化させて画面の中に展開していきます。

今展覧会のテーマであるゴーストは宇佐美作品においての鍵概念であり、ゴーストはアクセルとブレーキの作用によって現れると宇佐美は
定義しました。 「go-stop」と命名されたその概念はそれ以後のほとんどの宇佐美の作品に付随されました。

ゴーストとは亡霊や幽霊などの他に実体から抜け出したものを意味します。

宇佐美の作品の多くに展開される人型はそれぞれが実体のないゴーストであり、それらは複数体として画面の中に現れます。

1965年にワッツの暴動事件の写真から人形を抜き取った宇佐美はその前年に宇佐美本人を写真から抜き取りまずは自身を
ゴーストととして概念化しました。 それは宇佐美は自我を自身から抜き取り、他者を自身に憑依できる状態にしたことを意味します。

ミュージシャンであったデイビッド・ボウイは以前インタビューの中で、自身はコレクターであり、ありとあらゆる人格をコレクション
していると答えています。

宇佐美も同様に様々な分野の偉人たちを自身に憑依させることで作品を制作し、さらに画面の中に描かれている人型のモチーフに
鑑賞者自身も画面の中に入り主体的に絵画と捉える仕掛けを施したのです。

今展では1968年に発表したレーザー光線を用いたインスタレーション作品である 《Laser: Beam: Joint》 を中心に構成されます。

当時の最新技術を用いた画期的なインスタレーション作品はアクリルから切り抜かれた等身大の人型を繋ぐようにレーザー光線が
交錯していきます。

常に絵画に鑑賞者との深い繋がりを求めていた宇佐美はこのインスタレーションを完成させることで、鑑賞者の意識を絵画と接続させ、
作品と一体化させるための体感装置としての空間を創出しました。

また、今展では1965年にゴーストの概念を抽出した際の資料や、初期の代表作も展示いたします。

この機会にアーティストにとって重要な分岐点となった初期作品を通して宇佐美圭司の概念を考察していただけましたら幸いです。