この度、rin art association MAEBASHI ではヤビク・エンリケ・ユウジによる個展「Tangerine Collapse in the Alley」を開催いたします。
ヤビク・エンリケ・ユウジはブラジル・サンパウロに生まれ、小学生のときに群馬県に移住。思春期を過ごしたのち、東京という都市に触れたことと、古書籍で見た雑誌のグラフィックやフォントに衝撃を受けたことで、東京と現在の自身が、ブラジルと幼少期の自身(原風景の記憶)と繋がった感覚を得たことを切っ掛けにアーティスト活動を始めます。
彼の作品は自身の多様な経験や記憶などから抽出されるコラージュワークから成り立ち、それらにはダンボールやホチキスなどの日常的な物質が、彼の経験や記憶、空想のイーメージの断片と等価値として用いられます。
そこから連想されるのは世界の繋がりと多様性であり、彼の作品には世界に対しての明確な接続の意思と、時空を超えたリアリティが伴います。
組み替え可能なフレキシブルな作品は変容する世界のあり方を示唆し、時に見られるバイオレンスなどのラディカルな表現は、違和感や世界に歪みを生じさせ、不完全な世界の中に存在する《美しさ》を抽出します。
多くのファッションブランドとのコラボや、ファッション誌への作品提供などでも活躍。オブジェクトや、インスタレーション、アートとスケートカルチャーの新しい形態での融合を実験的に試みるなど、近年裾野をますます広げるヤビク・エンリケ・ユウジの新たな展開をこの機会にご高覧いただけたら幸いです。
【ステイトメント】
今年になって、作品制作を開始して以来初めてブラジルへ帰省した。
その旅は、自分にとって故郷を新しい視点で見つめ直すきっかけになった。
幼少期に過ごしたサンパウロはやっぱり、無数の音、色、匂い、人の気配が入り混じった、意味が定まらないノイズの海だった。文化、階級、歴史、希望、絶望、あらゆるものがごちゃ混ぜになったまま、輪郭もなく、かたちにならないまま、ただ街に溶け込んでいる。その混沌は、移民として日本に渡った自分が、新しい文化や価値観の中で輪郭を見失いそうになったときの不安と、どこか重なって見えた。旅を通して、いろいろな記憶が混ざる中で、これまで自分が何に惹かれてきたのか、その理由が少しずつ見えてきた気がした。
今回の展示場所、群馬県・前橋市は、上京前に高校時代を過ごした街でもある。
当時は、友達とスケボーをしたり、前橋商店街の片隅で他愛もない話をして過ごしていた。
そんな街に今、少しずつ新しい文化が生まれていて、どこか新しい空気も流れ始めている。
でも、その静けさの中に、どこか狂気めいたざわめきが潜んでいるように感じる瞬間もある。
思い出と今、衰退と再生、静けさとざわめき。
この街にいると、いろいろなものが交差していて、どこかサンパウロの空気とも似ているような、不思議な感覚になる。
たくさんの記憶や思いが交錯した制作期間は、
自分が今どこにいるのか、どこから来たのかを、改めて考えるような時間だった。
