鈴木 のぞみ

1983年 埼玉県生まれ
長い年月を経た場や物には、太陽光による日焼け後のような、痕跡にも似た記憶が潜んでいると捉えている。銀塩写真における物質的な化学反応によって、光の痕跡としてそれらの事物に潜んでいる記憶を可視化するために作品制作を続けている。

窓硝子や鍋に定着された風景のフレーミングは、かつてその事物の在った場所からすでに切り取られていたものであり、撮影者である私の意志や主観を超えた視点で日常風景を捉えている。写真に写されることで抽象化された風景は、見る者の持つ記憶を想起し、事物の持つ物質性とともに一人一人の内面性と結びつくことで、 風景として現前される。薄く壊れやすいゼラチンの膜に浮かび上がる風景は、光の化石として物質化された、事物にかろうじてこびりついた記憶の痕跡そのものの様である。

それらの写真が定着された事物は、支持体となる物と写真画像の持つイメージとが結びつき、それ自体が触れられる身体を与えられた写真となる。従来の写真が持つ、それを通して対象を見るという行為から、写真それ自体を見つめる対象とする行為へと見る者を導き、写真に潜む時の過ぎ去りの予感を遅延させる力を持つと考えている。